
殉職----奥克彦・井ノ上正盛が向きあった「日本」(諸君!2月号)から
世界の最前線で国家の命運をになった二人の外交官が遺した、魂のメッセージに耳を傾ける
一度取材でお目にかかった安田純平氏がイラクで行方不明になった。私が書いた記事の中から安田純平氏の言葉のある部分を緊急掲載する。
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<名誉> と誇りを奪う
金正日が日本人拉致を認めて一年以上が経過したにも拘わらず、拉致問題は解決の兆しも見せない。日本は個別的自衛権も発動できないまま、六カ国協議という極東田舎芝居の舞台で、アメリカと中国のパワーゲームに翻弄されて力無く遊弋するだけである。まさに、この状況が宿澤広朗氏が憤った <決断> の不在の結果であり、原因でもある。結局、日本国憲法という呪縛を解きほどかない限り、日本は日本人の生命を守るどころか、主体的な意思さえ保持できない。
日本国憲法が想定する国家像をもっと精緻に考えてみよう。そうすれば、三島由紀夫が死を以て訴えた九条の矛盾どころか、憲法前文の問題点までが詳かにされる。つまり、我が国がどうやって主権国家として存立していけるのかという、国家の生存権まで危機に瀕しているという本当の姿を日本人は自覚しなければならない。日本人個人の <名誉> と誇りを国家に連結させるという作業は、実は、私たちが喪われた日本という国家を取り戻す行為に他ならない。それほど、倒錯した状況に日本が置かれているということだ。二人を殺したのは日本国憲法なのかもしれない。
イラク戦争開始直前に、バグダッドで井ノ上氏が人間の盾に帰国を説得する場面に居合わせたフリージャーナリストの安田純平氏はこう言う。
「三月七日に日本大使館が閉鎖される直前にバグダッドの日本大使館で彼に会いました。井ノ上さんはTシャツだったので、てっきり新しく入ってきた日本人の人間の盾だと思いました。バックパッカーのような、その場にいることを楽しんでいるような雰囲気でした。イラク支援のNGOの受付がホテルにあったんですが、あれはバース党で酷いフセイン政権を支えていた人たちだから気をつけてと言われました。
取材ビザの獲得は難しかったので、私は人間の盾としてビザを取ってイラクに入りました。井ノ上さんはどこまで本音だか分かりませんでしたが、この戦争はおかしいと言っていた。その言葉が東京新聞に私のコメントとして掲載されたんですが、もう一度会って、イラク戦争をどう考えていたのか話しをしたかった。フセイン政権が倒れてイラク人がこの戦争を待っていたと言う人がかなり多かったし、今の現状をどう思っていたのか知りたかったですね。
私は、イラクの民間人の死体が転がっている前で、アメリカ良くやってくれたと言っている人を大勢見てきたので、一口にあの戦争はおかしいと言えない思っています。そういう所は現場を知らないと分からないと思うんですよ。彼の死は本当に辛かった。黒塗りの四駆で走っていたというのは見るからに狙ってくれと言っているようなものです。すぐ後から米軍のクルマが来たので、強盗がそれを見て逃げたという可能性もあるんです。実際、クルマに併走され銃で撃たれるということはイラクで良くあることです。メルセデスなど高速で走れる車が銃を乱射しているという話です。
地元の反米感情とテロリストの犯行とは全く違うので報道もきちんと伝えなければ駄目ですね。手榴弾なんかその辺の店で四、五十ドルで売っているので、その気になれば米兵を殺すのは簡単なんです。だから、大掛かりな自爆テロは全く一般住民の反米感情とは違うもので、他国のテロリストやフセイン政権の残党が起こしていると考えた方がいいでしょう。自衛隊がイラクへ行ったら、空手や剣道をイラク人に教えればいいんです。そんな事をしたら大人気になりますよ」
派遣する自衛隊員の死を一番待ち望んでいるのは一部の日本メディアですねと私が水を向けると、「平和団体と言われている人たちにそういう傾向があるのはおかしいです」と安田氏は言い切った。